nikki

適当なことを言う日記です

ひきだし、しわ寄せ

何年か前から会話の“間”に頓着しなくなった。

返答に迷えば保留するし相手の言うことが理解できなければ何回でも聞きかえす。ぴったりくる言葉が見つかるまで時間をかけて考える。そのようにしていたらなぜか身振り手振りが自然に大きくなっていた。それはとりもなおさずなにか愉快なことを言ったわけでもないのに「面白いね」とか「違和感がある」とか「相づちがこなれてない」とか「コミュニケーションがへた」とかそういうことを言われる原因なのだけれど、どうにかしようという気はいっさい兎の毛ほども心のなかにはない。

棒で突いた球が別の球に当たる、その球がまた別の球に当たる、その球がまた別の球にぶつかる、それから……そういう繰り返しの最後にすこんと落ちるような綺麗な会話が僕にはできない。模倣はできる。間を埋めるほかに意図のない発話でさくさく会話を進めることはできる。ただの音か、意味のないうろを発している感じがする。

いちばん自然で嘘の出てこないタイミングで音を発する。そのためには間が必要なので、間を取る。「倫理」や「誠実」みたいなものがたしかにあるらしいということは知っているけれど、それを獲得してはいないから、嘘をつかないように、内面のうろが出ないように、気をつけて、間を取る。間を取りながら、頭のなかで関係のありそうな抽斗をひとつずつ順に全部あける。最近はひとつの抽斗にひとつの言葉が入っている。すこし昔、たくさんの言葉を短い間で繰り出していた時はひとつの抽斗にもっとたくさんの言葉が入っていたような気がするけれど、間を取るようになってから脳がひどい体たらくで棚ごとのキャパシティが減ってしまった。

困っている。