nikki

適当なことを言う日記です

せめてあなたがサディスティックであったなら

誕生日に山吹色のガーベラの切花を二輪もらった。

人から植物をもらうという経験がなかったから花瓶はひとつも持っていないし、まして茎の切り方、花の挿し方、切花の寿命などもわからず、四月から花屋でバイトをしている友人をたのんで簡単なやり方を教わった。花瓶がなければコップで替えが利くからなんでもいいけど、水位はあなたの人差し指の第二関節くらい、茎が傷むので水を入れすぎてはいけない、毎日水はかえること。そのときに少しずつ茎の先を切ると良い、あ忘れちゃいけないのは、茎は水の中で斜めに切ること。表面積が大きいほうが水を吸いやすいから。そんなふうにすれば冬場だし十日くらいは元気なはず。ちなみにオレンジのガーベラの花言葉は神秘、冒険心。似合わねー。あと山吹色の山吹って花だから、「山吹色のガーベラ」ってすごい違和感ある。まあ上手くやって。切花って生きてるからね。

 

毎日朝に水をかえて、茎を切ると、植物が生きているという事実に肉迫する。生かされることと生きることの違いが当人の意志の有無に依るのなら、そもそもなにも志さない植物にとってその区別は意味を成さない。成さないけれども、やはり二つは同義ではない。犬と狸をどちらもchienと呼ぶフランス語に犬と狸の区別は存在しないが、それら自身はあくまで(あたかも!)明確に犬と狸でしかないように。

 

何日か後に、花をくれた人にお礼を言った。切花ってけっこう長持ちするんですね。お花をもらったのって初めてだったので、とても嬉しかったです。ありがとうございます。

ああ……そう?それなら良かった。てかそれ、買ったって言ったけど、実は居酒屋で配ってたやつなんだよね笑 ごめんごめん。あんまり嬉しそうだから言えなくてさあ。

 

傷つくということはなかったけれど(ガーベラはかわらず溌剌と生きているから)、どうせ打ち明けるならもっと嗜虐的にやってくれたらよかったのにと思った。隠し通してほしかったとはまったく思わないけれど、人が少なからず傷つく可能性のあることをその人がわざわざ正直に打ち明けてきたことに違和感があった。その人はサディストではなく、また誠実でもなく、うろんな人なのだ。悪い秘密を悪い秘密として保持できる人で、打ち明ける道理がないのだ。

 

花をくれた人が帰ってから、同席していた友人が言う。

私さ、実はあれ、居酒屋でもらったって知ってたんだよね。それでひどい話だと思って、ちょっとお説教した。絶対にあなたなら隠されるより打ち明けられたほうがいいと思ったから、タイミングをみつけてちゃんと言いなって。別に悲しんだりしないと思うから。

 

ああ、この人は私というものを心得ている。すごいな。

ありがとう。

 

どういたしまして。それで、はい。

 

そう言って、葉のついた金木犀の切花をくれた。

わたしには花をくれる友人がいるのだと思った。